作者がこだわった叙述に注目する読み

作者がどこにこだわっているのか。そんなことは作者にしか分からないはずです。しかし、特徴的な叙述によって、作者のこだわった場所が分かることがあります。それは現在感(presence)の高い叙述です。現在感は国語教育だけでなく文学研究にとっても有効性の高い概念なので、少し説明します。

裁判で証言する証人は、嘘をつくことなく自分の立場に有利な証言を行ます。なぜ、そんなことができるのか。カイン・ペレルマン(20世紀、ベルギー人)という修辞学者がこれに興味を持ち、そこで多用される方法を現在感(presence)という概念で説明しました。現在感とは、特定の箇所に注目させ、そこが重要だと感じさせる効果のことです。話し手は注目させたい箇所の現在感を上げることで、聞き手の意識をその場所に向けさせることができます。(注目させたくない箇所は現在感を下げます。)

このように書くと難しそうですが、現在感のポイントはとても簡単です。現在感は次の三つの要素で高めることができます。

  • 長く語る
  • 詳しく語る
  • 具体的に語る

要は、熱く語っている箇所です。長さ・詳しさ・具体性の間には重なりがあるので、一見、雑な概念のようにも見えますが、このシンプルさが現在感を使いやすく有効なものにしています。例えば、テレビドラマで重要なセリフが長く詳しくなることは、感覚的に納得できると思います。これは現在感の有効性を示す一例です。

ただし、テレビのセリフの例だけでは、「現在感なんて当たり前のことだろう」と感じるかもしれないので、このHPの『坊っちゃん』冒頭の分析を参照してください。私は『坊っちゃん』の冒頭の三つのエピソードについて、「不思議だ」とずっと感じていたのですが、自分ではその理由を見つけることができませんでした。現在感を知った時、一瞬でその謎が氷塊するとともに、漱石の天才ぶりを再認識しました。

ともかく、現在感とは熱く語っている場所で、長く・詳しく・具体的になると、覚えてください。これを知るだけでテキストの分析力が大きく上がります。

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